「市販のキャンバス、ちょっと高いな…」「自分好みのサイズが欲しい」
「もっとザラついた、独特のテクスチャが欲しい」
そんな風に思ったことはありませんか?実はキャンバスは、ホームセンターの木材と、普段捨ててしまう「卵の殻」で自作できるんです。
もちろん、何十年も残すような大作には信頼の市販品のジェッソが一番ですが、「実験的な作品を描きたい」「粗目の質感を安く試したい」という時には、このDIYが最高の選択肢になります。今回は、F4サイズのキャンバスを木枠から作り、卵殻ジェッソで仕上げるまでの全工程を公開します。

0.目次:特に見たいところに飛べます。
作成時のメモや調査したことをまとめていったら長くなったので、特に気になったところがあればそこから閲覧してください。しっかり見たい場合は順に読むことをお勧めします。
1. 木枠の製作:杉の角材をF4サイズに切り出す

まずは土台となる木枠作りから。今回は手に入りやすい杉(スギ)の角材を使用しました。
実は、市販のキャンバス木枠のほとんどが「杉」か「桐(キリ)」で作られています。
今回はDIYのしやすさと、しっかりとした剛性を求めて杉をチョイスしました。
なぜ「杉」か「桐」なのか?
なぜこの2種類が選ばれるのか、それぞれの特性を並べてみました。
杉(スギ): 強度が高く、タッカーや釘の保持力が強いのが特徴。大型のキャンバスや、布をパンパンに強く張りたい時に向いています。
桐(キリ): 非常に軽く、何より「湿気による狂い(反りやねじれ)」が少ないのが最大の特徴。長期保存を前提とする高級枠によく使われます。
材料とサイズ設定
今回使用した材料と、主要なFサイズを作るために必要な角材の目安をまとめました。
- 材料: 杉角材(幅30mm × 厚さ20mm、長さ980mm)
- 今回のサイズ: F4(\(333 \text{mm} \times 242 \text{mm}\))
ホームセンターでよく見かける「980mm」や「1000mm」単位の角材を購入する場合、以下の本数が必要になります。
【保存版】キャンバス規格・外寸早見表
| 号数 | F(人物) | P(風景) | M(海景) | S(正方形) | 980mm材の目安 |
| 0 | \(180 \times 140\) | – | – | \(180 \times 180\) | 1本で余裕 |
| SM | \(227 \times 158\) | – | – | \(227 \times 227\) | 1本でOK |
| 1 | \(220 \times 160\) | \(220 \times 140\) | \(220 \times 120\) | \(220 \times 220\) | 1本でOK |
| 2 | \(240 \times 190\) | \(240 \times 160\) | \(240 \times 140\) | \(240 \times 240\) | 1本(2号Sは2本推奨) |
| 3 | \(273 \times 220\) | \(273 \times 190\) | \(273 \times 160\) | \(273 \times 273\) | 2本(ここから2本必要) |
| 4 | \(333 \times 242\) | \(333 \times 220\) | \(333 \times 190\) | \(333 \times 333\) | 2本(F4が手ごろ) |
| 5 | \(350 \times 270\) | \(350 \times 240\) | \(350 \times 220\) | \(350 \times 350\) | 2本 |
| 6 | \(410 \times 318\) | \(410 \times 273\) | \(410 \times 242\) | \(410 \times 410\) | 2本(S6は3本必要) |
| 8 | \(455 \times 380\) | \(455 \times 333\) | \(455 \times 273\) | \(455 \times 455\) | 2本(S8は3本必要) |
| 10 | \(530 \times 455\) | \(530 \times 410\) | \(530 \times 333\) | \(530 \times 530\) | 3本〜 |
本数はあくまで目安なので、「”切断の長さ間違えた!”、また買いに行く羽目になった。」となりたくない場合は、少し長めに用意しておくと精神衛生上良いです。
【コラム】表現を左右する「F・P・M・S」の正体
日本のキャンバス規格には、数字(号数)の横に付いている「F・P・M・S」というアルファベットがあります。これらは一般的に「日本サイズ」と呼ばれ、同じ号数でも縦横の比率が異なります。
実はこのアルファベット、それぞれ描く対象のフランス語の頭文字から来ているんです。
1. F (Figure:人物)
最も一般的で、画材店で「キャンバスをください」と言えばまずこれが出てきます。フランス語で「顔・姿」を意味し、人物の肖像画を描く際に収まりが良いとされる比率です。
- 印象: 安定感があり、どんな主題にも合う万能。
2. P (Paysage:風景)
「風景」を意味する言葉の通り、Fサイズよりも少し横幅が長く(あるいは縦が短く)なっています。景色を見渡した時の視界に近い、広がりを感じさせる比率です。
- 印象: Fよりも少しスタイリッシュで、奥行きを表現しやすい。
3. M (Marine:海景)
「海」を意味し、4つの中で最も細長い形をしています。水平線を強調したダイナミックな構図や、海辺のパノラマを描くために設計されました。
- 印象: 非常にモダンで鋭い印象。あえて縦長に使って、高さのある被写体を描くのにも面白い形です。
4. S (Square:正方形)
名前の通り「スクエア(正方形)」です。伝統的な絵画規格とは別に、近年特に人気が高まっています。
印象: どこを切り取っても「SNS映え」する現代的な雰囲気。デザイン性が高く、インテリアとして飾るのにも最適です。
加工と固定:45度の精度が命
角を45度にカットして合わせ、接合部はタッカーでバチンと固定していきます。

特別な技術は不要ですが、切り出しの「正確な角度」が完成時の歪みを左右します。市販品のような複雑なホゾ組み(凹凸の噛み合わせ)は難しいですが、杉材ならタッカーでも十分に実用的な強度が確保可能です。
ハンドタッカー&ホチキス
枠づくりと布地固定に使うタッカー
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2. 布の準備:一手間で「たるみ」を防ぐ「水通し」
木枠ができたら、次はキャンバスの「肌」となる布の準備です。今回は手元にあった綿布を使用しましたが、ここで欠かせないのが「水通し」という作業です。
- 水通し: 布を一度水に浸して、あらかじめ縮ませておきます。
- 乾燥とアイロン: 乾かした後、シワをしっかり伸ばします。
この「先に縮ませておく」工程を抜くと、後でジェッソを塗った時に布が波打ってしまうので、サボれないポイントです。
2.1 布のカット:余裕を持ったサイズ設計
水通しをすると布は縮みます。カットする際は、以下の計算で余裕を持って用意しましょう。
- 計算式: 木枠のサイズ +(枠の厚み × 2)+ 止め代
- アドバイス: 縮む分と、タッカーで固定する際の「掴みしろ」を考慮し、理論値よりも数センチ長めにしておくと精神衛生上も非常に良いです。測るのが面倒なら、とりあえず布を広げて、そこに作ったキャンバスの枠を置き、上下左右にこぶし1つ分くらい大きめに切り出せば大体ちょうどよくなります。余った分は止めるときに切ればいいので、最終的な見た目もきれいに整えやすいです。

2.2 水通しの手順
- 浸水: バケツに水を張り、カットした布を放り込みます。
- 揉み込み: 布の芯まで水が浸透するように、水中で軽く揉み洗いをします。
- 放置(10〜20分): そのまましっかり水を含ませるために放置します。この間に布の繊維が自然に戻り、収縮が完了します。
- 脱水: 取り出したら、雑巾のように絞るのではなく、手で挟んで押すようにして軽く水気を切ります(強く絞りすぎると、後のアイロンがけが大変になります)。
- 日陰干し: シワを軽く伸ばし、直射日光を避けて日陰で干します。

3. 布張り:アイロンと「引っ張り」で太鼓のように仕上げる
水通しが終わった布を、いよいよ木枠に固定していきます。ここでの目標は、指で弾いたときに「ポンッ」といい音がする、太鼓のような張りを目指すことです。
布を「リセット」するアイロンがけ

アイロンがけ
水通し後の布はシワだらけです。そのまま張るとシワが残り、描き心地に悪影響を与えます。
理由: 綿の繊維は水分と熱が加わることで最も柔らかくなり、伸びが良くなります。この「一番伸びた状態」で木枠に固定することで、乾燥後にさらに布が締まり、完璧な張りが生まれます。
コツ: アイロンは「スチーム」を全開にするか、なければ「霧吹き」で布をしっかり湿らせてから当ててください。アイロン後は完全に乾かず少し湿っているかな?くらいの水気があるとベストです。

完全に伸ばしきらず、ある程度水気があるくらいでやめる
【順番が大事!】ステップ別・失敗しない布張りの手順
それでは、タッカーを使って固定していきましょう。ポイントは「中心から外へ」、そして「常に対角線上の辺を攻める」ことです。
ハンドタッカー&ホチキス
枠づくりと布地固定に使うタッカー
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① 配置と最初の一打
アイロンをかけた布を広げ、その中央に木枠を置きます。まずは、長辺(長い方の辺)の中央を1ヶ所、タッカーで固定します。

② 十字に留める
ここが重要です。最初に打った場所の真反対側へ回り、布をグイグイと力強く引っ張ります。軽く「引っ張りシワ」ができるくらいが目安です。その状態で中央を固定。同様にして短い辺も引っ張ってから中央を留め、同様に真反対側を留めます。
これで、布に「十字のテンション」がかかりました。

キャンバスプライヤー(張り器)
DIYなので、手で引っ張って止めていますが、プロは手で引っ張るだけでなく、「キャンバスプライヤー(張り器)」という専用のペンチのような道具を使います。
これを使うと、指先では不可能な細かいテンションの調整ができるため、大きなキャンバスを作るときにテンション調整しやすいというメリットがあります。
DIYレベル(スケッチブックサイズくらいまでの大きさ)では、オーバースペックすぎるので、気持ち強めに引っ張って置けばOKです。
キャンバスプライヤー
キャンバスプライヤーはこういうやつです。アイラッシュカーラーっぽい見た目です。
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➂ 辺を埋めていく
中央から角に向かって、少しずつタッカーの間隔を埋めていきます。ここでも「右を打ったら次は左(反対側)」というルールを守ることで、歪みのない均一な張りが得られます。
④ 角の手前でストップ
角の数センチ手前まで来たら、一旦タッカーを打つのを止めます。最後の大仕事「角の処理」が待っているからです。

辺を留めた様子、角はまだ留めません
角の「三角折り」
角の部分に布が重なるとボコボコして見栄えが悪くなります。美しく仕上げるために、一般的な「三角折り(ホスピタルコーナー,薬方折ともいう)」で処理しましょう。
- 角の余った布を、斜め45度に折り込みます。
- 木枠の角を包み込むように、パタンと畳みます。
- 重なりが最小限になるように整えながら、最後にタッカーでバチン!


これで、布張りまで完了しました。下地無しで描くこともできますが、色ノリや塗りやすいキャンバスにするために、次に下地材(ジェッソ)の用意をしていきます。

布張り後のキャンバス
4. 【本題】卵の殻で「自家製ジェッソ」を作る
さて、ここからが本番。そもそも「ジェッソ」とは何なのか?
市販のジェッソ
アクリル下地材、発色を良くしたり絵の具を塗りやすくしたりいろいろ効能がある
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ジェッソの主成分
アクリルジェッソの中身は大体以下の3つ(+水)から構成されています。
- アクリル樹脂エマルション(媒体): 粒子状のアクリル樹脂が水に分散しているもの。乾燥すると固まり、柔軟な膜を作ります。
- チタニウムホワイト(顔料): 強い隠蔽力(下の色を隠す力)を持ち、白色を出します。
- 炭酸カルシウム(体質顔料): 塗膜にマット(艶消し)な質感を与え、絵具の定着を良くするざらつきを持たせます。
- 水: エマルションの分散媒
チタニウムホワイトは、絵の具の白色と同じですね。また、この体質顔料として使われる「炭酸カルシウム」……実は、卵の殻の主成分と全く同じなんです。
また、これらに加えて”アクリル樹脂エマルション”という聞きなれないものが入っています。これは、アクリルの接着剤と考えればよいです。全く同じものを手に入れたいときは“水性アクリル塗料(透明か白)”がホームセンターなどで手に入ります。
卵殻ジェッソの材料
- 洗って乾かした卵の殻(内側の薄膜を丁寧に取り除くこと!)
- 白色のアクリル絵の具
- 木工用ボンド
- 混ぜたりする容器(使い捨てコップで可)

ジェッソ代用材料
水溶性アクリル樹脂を切らしていたので、試作用キャンバス(数十年単位では劣化の可能性がある)として木工用ボンドで代用します。
(木工用ボンドは弱酸性なので、炭酸カルシウムの分量調整で中性にする必要があります)
あと、画像のチューブ型のものでギリギリ足りるかなくらい結構白色絵の具を使うので、多めに用意しておくと安心です。
白色(チタニウムホワイト)アクリル絵の具
100ml以上の大容量で1,000円を切るのでおすすめ
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卵殻パウダーの精製(沈殿法)
卵殻を混ぜるにあたり、ある程度揃った細かい粒子にする必要があります。乳鉢などで頑張ればそれなりにできなくはないですが、大変なので水に混ぜて沈殿させ分離します。
卵殻膜(薄い膜)を剥がして乾かした殻を、ミキサーやすり鉢で粉砕します。この時、微細な粉塵が舞うのでマスクを着用して作業してください。
ある程度の細かさになったら、水に溶かし、攪拌すると濁るので、かき混ぜ、少し置いて大きい粒子が沈んだら上澄みを他の容器に移すことで粒子サイズを選別します。
- 粉砕: 乾かした卵の殻をミキサーで粉々に。さらにすり鉢で追い込みます。
- 選別: コップを2つ用意し、片方に水と粉を入れて混ぜます。
- 沈殿法: 数秒待つと、大きすぎる粒子が先に沈みます。その「濁った上澄み」だけをもう片方のコップに移すと、描き心地の良い「程よい粒度」の粉だけを取り出せるんです。

- 粉砕します。粉砂糖くらいの細かさまで擦っておきます。

2. 水に混ぜて2つの容器で沈殿分離
調合レシピ
この精製した卵殻パウダーに、以下の2つを混ぜ合わせます。この時の比率は、接着剤と絵の具は1:1、卵殻パウダーの入った水はこの2倍以上で混ぜます。
- 白のアクリル絵の具(顔料)
- 木工用ボンド(接着剤)
下地の粘度は、一番下の下地は水多め、その上の2層目以降の下地は粘土高めで塗ることで、まず布にしっかりしみこみ不要な伸びを止める。その後、絵の具の乗りやムラのない白地を作る。という目的があるので、まずは薄め 次から絵の具と接着剤を追加してちょっと濃いめ(水っぽいが若干粘度があるくらい)に作ります。
1層目の下地用 接着剤:絵の具:水(粉入り) = \(1:1:3 \sim 4\)
2層目以降の下地用 接着剤:絵の具:水(粉入り) = \(1:1:2 \,\text{程度}\)
を目安に作るといい感じです。

絵の具と接着剤と混ぜて完成
4. 仕上げ:塗布とサンディング
自作ジェッソをキャンバスに塗っていきます。
- 塗る: 粗目のテクスチャを意識しながら、数回に分けて重ね塗り。
- 乾かす: しっかり乾燥させると、卵殻由来のマットで硬質な質感が出てきます。この時水平な台に載せて乾かすこと!
- 研磨: 最後に表面を軽くヤスリ掛けして整えれば完成!
1層目から、完成までの各段階でのキャンバスの様子です。


1層目、しゃばしゃばなジェッソで下塗り。塗ったところと塗っていないところが目に見えてわかる

二層目。一層目が乾いたら布地の色が浮いてくるので、ちょっと濃いめにしたジェッソで上塗り、この時、縦か横どちらか向きを決めて塗る。次の層では、その逆で塗ることで色むらがなくなる。

3層目。枠組みが透けなくなってくる。布地の色がだいぶ薄くなり白くなってくる。

4層目。光の当たり方もあるが、だいぶ白くなった

5層目。だいぶ白くなったので、塗りはここで完了とする。5層目は、縦横両方塗って、普通の色塗りと同じように塗った。

#300か#400の紙やすりで軽くなでるように、出っ張りを削る。
(ざらつきを残したい場合は省略してもいい)

完成
白いキャンバスの完成です。
卵殻で作っていますが、滑らかである程度の荒さもある表面となっています。水で粒度を分ける段階で、沈むまでの待ち時間を調整することで、ある程度粒度を調整することもできるので、いろいろ試してみると楽しいです。
まとめ:自作キャンバスの魅力と注意点
実際に作ってみて感じた、自作のメリット・デメリットです。
| メリット | デメリット・注意点 |
| 圧倒的に安上がり(材料費ほぼ数百円) | 製作に手間と時間がかかる |
| 既製品にない「粗い質感」が手に入る | 長期保存(アーカイブ性)はやや劣る |
| 道具への愛着が湧き、実験が楽しい | 粒度が粗すぎると筆を傷める可能性 |
「まずはこのサイズで、こんな質感を試してみたい」という実験精神旺盛な絵描きさんには、卵殻ジェッソは最高の遊び場になります。
今回は、標準的な白色ジェッソにしました。
手順は同じで混ぜる絵の具を変えることで色付きジェッソ(有色下地)を作ることもできます。伝統的な絵画技法(インプリミトゥーラ)のように、赤茶色や灰色のジェッソを自作することもできます。次は黒色キャンバスに挑戦してみるのも面白いかもしれません
ランプブラック 黒色絵の具
黒ならマースブラックが遮隠力が高い、ランプブラックでもいい感じの深みを出せます
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キッチンに卵の殻が溜まっていたら、捨てずにミキサーへ放り込んでみてはいかがでしょうか?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
では、次の記事で。 lumenHero