3Dプリンターの印刷:失敗しないための基本設定【初心者向け】

3Dプリンターのプリントヘッドが、一層ずつフィラメントを積み重ねて青い歯車を造形している様子を描いたイラスト。

3dモデル印刷する前にすること

3dモデルから直接は印刷できないのでスライスデータにすることが必要です。スライスの仕方については前回の記事で紹介しています。

3dプリントデータを配布してくれているサイトでは、.stlのような3dモデルのデータで配布、印刷するためにその印刷順序や設定を細かく設定し3dプリンタで印刷できる形の.gcodeに変換する必要があります。

3Dプリントの工程:歯車の3Dモデル作成(モデリング)→積層データへ変換(スライス)→プリンターで造形(プリント)

印刷までの手順 今回の記事はプリントについて紹介

.stlからのスライスの仕方

3dモデルをスライスしていることを表す画像

3Dプリンターのスライスとは?インフィル・壁厚をわかりやすく解説【初心者向け】

3dモデルのスライスについて3dプリンタで印刷できる形式.gcodeに出力するまで、詳細な設定の仕方について紹介します。

3dプリンタの準備(印刷前チェック)

最低限以下の設定を印刷前に確認しすることで失敗は減らせます。

1. 最重要項目:レベリング(水平出し)

印刷物が途中でプレートから剥がれたり、完成したモデルが歪んでしまったりする最大の原因の一つが、ビルドプレートの水平が取れていないことです。

ノズルとビルドプレートの隙間が全域で均一になっていないと、一層目が正しく定着せず、あらゆる不具合の引き金となります。

【確認のタイミング】

  • その日、初めて印刷するとき
  • プリンタを移動させた後
  • 長期間、印刷をしていなかったとき

毎回行う必要はありませんが、上記のようなタイミングでレベリングを確認・調整する習慣をつけるだけで、印刷の安定性は劇的に向上します。

レベリングの仕方

レベリングの方法は、マニュアルでノズルとビルドプレートの間にチェック用の紙やカードなどを挟み、カードなどの引っ掛かり具合からビルドプレートの高さ調節ねじを回して調整するマニュアル調整と、センサがついている3dプリンタでは、オートレベリングがあります。

===注意 オートレベリングは補正なのでマニュアル調整をしてから===
オートレベリングは、プリンタの印刷の高さを調整することで剥がれないように高さ補正してくれますが、これはノズル側の高さを変化させることでビルドプレートからの高さを合わせるものであるため、あくまで補正です。ビルドプレート自体の水平はとってくれないものがほとんどです(業務用の高級機種なら調整できるものもあるらしい)。よって、オートレベリングがある機種でも、一旦マニュアルでビルドプレートの高さを確認し、ある程度調整後、オートレベリングで最終調整をするといった使い方をするとよいです。

2.ノズル(ホットエンド)温度の設定確認

ノズルの温度が低すぎると、フィラメントが十分に溶けずノズル詰まりや、積層した層同士がうまく接着せずに強度が不足する原因となります。逆に高すぎると、樹脂がサラサラになりすぎて糸引きが多発したり、細かな形状が崩れてしまう原因になります。

まずは一般的な推奨温度を目安として設定し、印刷品質を見ながら微調整を行ってください。

少し応用的ですが、高速に印刷する場合は通常時に比べてノズル温度を+5~10℃くらいに設定すると高速印刷に対応できます。

表1 フィラメントごとのノズル温度目安

フィラメントの種類ノズル温度の目安特徴と注意点
PLA190~220℃最も低温で安定して印刷できるフィラメントです。温度が高すぎると糸引きやブリッジ(空中に橋を渡すような形状)の垂れ下がりが顕著になります。逆に低いと、光沢感がなくなり、層間の接着力が弱くなります。
ABS230250℃高温で溶かすことで、強力な層間接着力を発揮します。温度が低いと、造形物が簡単にパキッと割れてしまう強度不足の状態になります。印刷中は特有の臭いが発生するため、十分な換気が必要です。
PETG230250℃ABSと同様に高温が必要ですが、温度管理がシビアな面があります。温度が高すぎると糸引きやノズル先端へのダマの付着が、低すぎると表面が荒々しくなる傾向があります。最適な光沢と強度が得られる温度を探すのがコツです。
TPU210230℃柔軟性があるため、ゆっくりとした速度で印刷することが重要です。温度が高すぎるとノズル内で圧力がかかりすぎて詰まりの原因になります。まずは低めの温度から試すのがおすすめです。
Nylon240260℃非常に高い温度を必要とする上級者向けのフィラメントです。高温に耐えられる全金属製のホットエンドが推奨されます。吸湿性が極めて高いため、印刷直前まで乾燥させておくことが成功の絶対条件です。

3. フィラメントに合わせたビルドプレートの温度設定の確認

ビルドプレートの温度は、一層目の定着を左右する重要なパラメータです。プレートが冷えすぎているとフィラメントが定着せずに剥がれてしまい、逆に熱すぎても樹脂が軟化しすぎて造形が崩れる原因となります。

一般的には種類ごとの設定温度は以下を目安に調整しましょう。

表2 フィラメントごとのビルドプレートの温度設定

フィラメントの種類ビルドプレート温度の目安特徴と注意点
PLA5060℃ (または非加熱)最も扱いやすいフィラメント。加熱なしでも印刷可能ですが、反りを防ぎ、定着を安定させるために50~60℃に設定するのが一般的です。温度が高すぎると、モデルの底面が軟化して変形(象の足現象)することがあります。
ABS90110℃高い温度での加熱が必須です。温度が低いと収縮が激しく、プレートから剥がれたり、深刻な反りや層間剥離が発生します。印刷中はドラフト(すきま風)を避け、エンクロージャー(筐体)でプリンタを覆うと成功率が格段に上がります。
PETG7085℃PLAとABSの中間的な性質を持ちます。PLAよりは反りやすいですが、ABSほどではありません。プレートへの定着が非常に良いため、温度が高すぎたり、ノズルがプレートに近すぎると、定着しすぎてモデルやプレートを破損することがあります。
TPU4060℃ゴムのように柔らかい軟質フィラメント。加熱は必須ではありませんが、PLAと同様に軽く温めることで一層目の定着が安定します。接着力が強いため、スティックのりやマスキングテープをプレートに塗布して、剥がしやすくする工夫も有効です。
Nylon7090℃高強度で耐摩耗性に優れますが、非常に吸湿しやすく、反りやすい上級者向けのフィラメントです。ABSと同様に高温のプレートが必要で、エンクロージャーの使用が推奨されます。使用前の乾燥が必須です。
3dプリント主要なフィラメントごとのビルドプレート温度設定

フィラメントの種類以外にも、周辺環境に合わせて微調整を行うと、いつでも安定して印刷できます。

  • 3Dプリンタの設置環境
    • エアコンの風などが直接当たるか
    • 熱がこもりやすい部屋か、あるいは寒い部屋か
    • 季節(夏か冬か)

まずは、使用するフィラメントの推奨設定温度を目安にし、そこからご自身の環境に合わせて±5℃くらいの範囲で微調整していくのが成功のコツです。

PLAの温度設定注意事項

PLAは印刷がしやすく高温にする必要がないため、初心者にも比較的失敗が少ないフィラメントですが、その分、65℃を超えると底面が軟化し始めることがあるため、PLAの場合は、特にビルドプレート温度を上げ過ぎないことに注意が必要です。

設定を確認・調整後 3Dプリント

ここまでの設定を確認すれば基本的なプリントの準備(レベリング,ビルドプレート及びホットエンドの温度設定)は完了です。

もしも、この記事の中で紹介している調整をしてもうまく印刷できないときは、対症療法的に症状に合わせて直す必要があります。

(今回は基本設定の紹介であり、3dプリンタの機種ごとに症状の対応が変わってきたりするのでここでは紹介しません。「機種名+症状(プレートから浮く、接着が弱い)」などで検索してみてください、きっと先駆者がいるはずです。)

まとめ

今回の記事では、3dプリンタ本体の設定について、レベリングとフィラメントごとの推奨設定について紹介しました。うまく印刷できたでしょうか?もし印刷できたなら、その手引きができたことを幸いに思います。

では、次の記事で。 lumenHero