前回までは、ランベルトの連分数展開がいかに「テイラー展開の皮を剥いでいく」ようなステップで構成されているかを解説し、前回は以下の数式を導出してみました。
\[\tan x = \cfrac{x}{1 – \cfrac{x^2}{3 – \cfrac{x^2}{5 – \cfrac{x^2}{7 – \dots}}}}\dots (1)\]
今回は関係を使って、「円周率 \(\pi\) は無理数(分数で表せない数)である」ことを証明します。1761年、ヨハン・ハインリヒ・ランベルトが実際に行った歴史的な証明のエッセンスを、現代的に噛み砕いて見ていきましょう。
関連記事:ランベルトの連分数展開
歴史と概要:πが無理数であることの証明:ランベルトの功績と連分数展開の歴史【ランベルトの連分数展開 #1】
理論編(その1)理論と数式:tan x の連分数展開の導出:微分方程式を用いた数理的アプローチ【ランベルトの連分数展開 #2】
理論編(その2)無理性の証明:←今ここ
補足 ランベルトの無限降下証明:【詳解】ランベルトの補題:数式で追う「無限降下」の正体【ランベルトの連分数展開 #3補足】
現代での活用:(記事は現在利用できません: ID 7463)
自作電卓に組み込んでみた : (記事は現在利用できません: ID 7438)
証明(背理法):πは無理数である
証明のコア:\(\tan(\pi/4) = 1\)
今回の証明で鍵となる事実はたった一つです。
\(\tan\left(\frac{\pi}{4}\right) = 1\) である。
当たり前のことですが、これが背理法で矛盾を証明する核心的事実です。「1」という数値は、明らかに有理数(\(\frac{1}{1}\) という分数)だからです。この事実を念頭に置いて、証明を進めましょう。
ステップ1:背理法のセットアップ(仮定)
まず、「\(\pi\) が有理数である」と仮定します。
仮定: \(\pi = \frac{a}{b}\) (\(a, b\) は整数、\(b \neq 0\))と書ける。
この仮定が正しいとすると、\(\pi\) を \(4\) で割った値もまた有理数となります。
\[ \frac{\pi}{4} = \frac{a}{4b} \]
ここからは、この「有理数 \(x = \frac{\pi}{4}\)」を、前回導出した \(\tan x\dots (1)\) の式に代入したときの挙動に注目します。
ステップ2:ランベルトの定理
ランベルトはこの証明の核心として、以下の定理を提示しました。
定理: \(x\) が \(0\) 以外の有理数であるとき、 \(\tan x\) は必ず無理数になる。
\[\tan x = \cfrac{x}{1 – \cfrac{x^2}{3 – \cfrac{x^2}{5 – \cfrac{x^2}{7 – \dots}}}}\]
この定理を証明するために、「どのような条件なら、この式は有理数(分数)で止まらず、無理数になるのか」を示す必要があります。
2-A. 有理数なら「有限」で止まらなければならない
ある数が「有理数」であることは、連分数展開したときにいつか必ず計算が終わり、有限の長さで止まることと同義です。
\[\tan(p/q) = \cfrac{p}{q – \cfrac{p^2}{3q – \cfrac{p^2}{5q – \dots \cfrac{p^2}{\alpha}}}}\]
もし \(\alpha\) が有理数として途中で止まるなら、下から順に通分を繰り返すことで、最終的に一つの分数にまとめることができます。しかし、\(\tan x\) の式は分母に \(1, 3, 5, \dots\) と無限に続く構造を持っており、一見するとそれだけで無理数のように思えますが注意が必要です。
「無限に続く=無理数」ではない?
とても簡単な例ですが、以下のような「一般連分数」は無限に続きますが、値は有理数です。
\[1 = \cfrac{1}{2 – \cfrac{1}{2 – \cfrac{1}{2 – \cfrac{1}{2 – \dots}}}} \]
この式は右側に「\(\dots\)」があり、無限に続いています。しかし、その値はきっかり 「1(有理数)」 です。
※一応補足:この値を \(x\) とおくと、入れ子構造から \(x = \frac{1}{2-x}\) と書けます。これを解くと \(x^2 – 2x + 1 = 0\) より \((x-1)^2 = 0\) 、つまり \(x=1\)(有理数)となります。このように、自身を入れ子にできるケース(自己相似的構造)では、無限の連分数でも有理数になってしまいます。
2-B. 有理数 \(x\) を代入して「整数の連分数」にする
ランベルトは、\(\tan x\) の連分数が上記の例外(有理数への収束)に当てはまらないことを証明しました。
2-B1. すべての項を整数にする
\(x\) が有理数(\(x = p/q\))のとき、分母・分子を整理すると以下の「整数の連分数」が得られます。
\[\tan(p/q) = \cfrac{p}{q – \cfrac{p^2}{3q – \cfrac{p^2}{5q – \cfrac{p^2}{7q – \dots}}}}\]
2-B2. 分母が分子を「圧倒」する
この式の第 \(n\) 項における「部分分子 \(a_n\)」と「部分分母 \(b_n\)」に注目します。
- 部分分子 \(a_n\): 第2項以降、常に \(a_n = -p^2\) (一定の固定値)。
- 部分分母 \(b_n\): \(b_n = (2n-1)q\)。 \(n\) が進むにつれて奇数列に従い無限に増大する。
ここで、ある段階 \(n\) を超えると必ず \(|b_n| \ge |a_n| + 1\) が永続的に成立する地点に到達します。
2-B3. 現代の証明:プリングスハイムの定理の系
一般連分数には、次の強力な判定条件が存在します。
判定条件(プリングスハイムの定理の系)
ある段階以降のすべての \(n\) について、 \(|b_n| \ge |a_n| + 1\) が成立し、かつその関係が永続する場合、その連分数は無理数に収束する。
今回の式において、分子 \(p^2\) は固定値ですが、分母 \((2n-1)q\) は \(n\) と共に増大し続けます。つまり、どんな \(p, q\) を選んだとしても、ある程度の段数 \(n\) を超えれば必ず次の不等式が永続的に成立する地点に到達します。
\[|b_n| \ge |a_n| + 1\]
\[ (2n-1)q > p^2 + 1 \dots (2)\]
この不等式が満たされる領域(無理性確定領域)に一度突入すると、連分数の剰余項が \(0\) になることは決してありません。
つまり、どの段階をとっても「分子で分母を割り切って計算を終わらせる」ことができず、有理数解への着地を拒絶し続ける構造になっているのです。したがって、\(\tan(p/q)\) は無理数であることが確定します。
よって、\(x\) が \(0\) 以外の有理数であるとき、 \(\tan x\) は必ず無理数になる。といえます。
3. 補足:ランベルトの補題 “なぜ剰余項が 0 にならないと「無理数」なのか?”
現代的な視点では、前述のプリングスハイムの定理(複素関数論や解析接続を駆使した収束判定)でスマートに且つ厳密に説明されます。しかし、その中身は非常に高度な前提知識を必要とするため、ここでは1761年にランベルト自身が用いた「無限降下法(Method of Infinite Descent)」のロジックを噛み砕いて解説します。
細かく説明した結果、ここで表示するには長くなったので詳細は別記事にまとめました、式変形などが気になる方はこちら→:【詳解】ランベルトの補題:数式で追う「無限降下」の正体【ランベルトの連分数展開 #3補足】
3.1 ランベルトの補題の証明概略
上の記事で詳しく式変形してまとめたことを端的にまとめます。
tan (有理数 ) = 有理数であると仮定し、ある地点の余剰項\(v_n\) (\(v_n = \frac{a_{n+1}}{b_{n+1} + v_{n+1}}\))について考えると、有理数である分数の余剰項なので、余剰項も有理数であるはずです。\(v_n = \frac{A_n}{B_n} \) これらを用い、前述の「分母が分子を圧倒する条件(\(|b_{n+1}| \ge |a_{n+1}| + 1\))」をもとに分母分子の大きさを比較していくと、
\[A_n > A_{n+1} > A_{n+2} > \dots > 0 \dots (3)\]
という関係が得られます。
このとき、\(v_n = \frac{A_n}{B_n} \)において、\(A_n\)は有理数の定義から整数である必要がありますが、上の関係式(3)を見ると、これを満たすためには任意のnにおいて\(A_n\)は整数であるのにもかかわらず、0以上で且つ無限に小さくなり続ける必要があることになります。これは整数の最小単位が1であることから不可能です。
よって、「分子 \(A_n\) が一段ごとに小さくなる」のに「絶対にゼロにならず永遠に続く」というこの状況から、「そもそも \(v_n\) を有理数(\(\frac{A_n}{B_n}\))と置いたこと自体が間違いだった」ことを示せます。
結果として“\(x\) が \(0\) 以外の有理数であるとき、 \(\tan x\) は有理数になる。”という仮定が偽であることがわかり、“\(x\) が \(0\) 以外の有理数であるとき、 \(\tan x\) は無理数になる。”ことが示せました。
“\(x\) が \(0\) 以外の有理数であるとき、 \(\tan x\) は無理数になる。”
これをランベルトの補題と呼んだりします。
式変形や詳しい説明:【詳解】ランベルトの補題:数式で追う「無限降下」の正体【ランベルトの連分数展開 #3補足】
ステップ3:矛盾の発生(背理法)
πが無理数である証明の核心である、ランベルトの定理”tan x でxが有理数ならtan xは無理数である”を示せたので、ここまでの話をまとめます。
- 仮定: \(\pi\) は有理数である。
- 帰結: すると \(x = \frac{\pi}{4}\) も有理数である。
- 定理の適用: \(x\) が有理数なら、上述の論理により \(\tan x\) は 無理数 になるはずである。
- 反例: しかし、実際には \(\tan(\pi/4) = 1\) (有理数)である。
結論:\(\pi\) は無理数である
背理法により、反例があるため仮定は誤りであったといえます。よってπは無理数であることが示せました。
さいごに
今回は、前回導出した連分数展開から始め、分子と分母の増加量により分子は小さくなるはずであること、もし仮定通りπが有理数であるなら分子が1より小さくなれない(整数である)ということの矛盾からπが無理数であることを示してみました。
一瞥するだけだと背理法に背理法を重ねて証明しているため狐につままれたような気持ちになるかもしれませんが、順を追ってみると数学の証明として論理立ててきれいに証明されていることを確認できると思います。
さて、今回はランベルトのπが無理数であるという証明を追ってみましたが、ランベルトが導いたtanの連分数展開はπの無理数性の証明以上に現代でも、コンピュータ内の計算手法として生かされています。
次回は、ランベルトの連分数展開の現代での利用に焦点を当てて、tanの近似手法としてのランベルトの連分数を解説していきます。
次回:(記事は現在利用できません: ID 7463)
(※私は数学徒ではないので、厳密にはこの記事中の計算が厳密に正しいことを担保できません。もし宜しければ有識者の方、査読していただけると大変助かります。上側の問い合わせフォームより、「ここ変だよ」などご指摘いただけると嬉しいです (;´∀`))
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補足 ランベルトの無限降下証明:【詳解】ランベルトの補題:数式で追う「無限降下」の正体【ランベルトの連分数展開 #3補足】
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自作電卓に組み込んでみた : (記事は現在利用できません: ID 7438)