【詳解】ランベルトの補題:数式で追う「無限降下」の正体【ランベルトの連分数展開 #3補足】

この記事は、メイン記事「ランベルトの定理:なぜ \(\pi\) は無理数なのか」の補足資料です。
\(pi\) が無理数であるという『定理』を証明するための、最も重要な『ランベルトの補題』を解説します。

本項では、1761年にランベルトが提示した「無限降下法(Method of Infinite Descent)」による証明の核心部分を、数式変形を追いながら詳しく解説します。

まだメイン記事を読んでいない方は、まずそちらで「なぜ連分数が無理数の証明に繋がるのか」の全体像を把握してから戻ってきてください。

無理性の証明(本編):πが無理数であることの証明:ランベルトの定理と論理【ランベルトの連分数展開 #3】

メイン記事では「\(\tan x\) が無理数なら、\(\tan(\pi/4)=1\)(有理数)より \(\pi/4\) は有理数ではあり得ない」という流れを解説しました。本稿では、その前提となる「\(x\) が \(0\) 以外の有理数ならば、\(\tan x\) は無理数である」という命題を、ランベルトが用いた無限降下法で証明します。


1. 証明のスタート:背理法のセットアップ

まず、以下の2つを仮定します。

  1. 入力 \(x\) は \(0\) 以外の有理数である: \(x = p/q\) (\(p, q\) は整数)
  2. 出力 \(\tan x\) も有理数であると「仮定」する: \(\tan x = A/B\) (\(A, B\) は整数)

この「\(\tan x\) も有理数である」という仮定から出発して、これが矛盾することから背理法を用いてランベルトの定理 「\(x\) が \(0\) 以外の有理数ならば、\(\tan x\) は無理数である」を示します。

2. 剰余項 \(v_n\) が持つ「有理数」の連鎖

ランベルトの連分数展開を途中で打ち切ったときの「余り」を剰余項 \(v_n\) と呼びます。

もし \(\tan x\) が有理数(分数)であれば、そこから逆算して求められる剰余項 \(v_n\) もまた、有理数(分数)としての性質を引き継いでいなければなりません。
\[v_n = \frac{A_n}{B_n} \quad (A_n, B_n \text{ は正の整数})\]

ここで、連分数の漸化式を思い出しましょう。隣り合うステップの剰余項には次の関係があります。
\[v_n = \frac{a_{n+1}}{b_{n+1} + v_{n+1}}\]

\(a_{n+1} = -p^2\), \(b_{n+1} = (2n+1)q\) であり、これらはすべて整数です。

3. 数式変形:整数分子 \(A_n\) の追跡

漸化式を \(v_{n+1}\) について解き、\(v_n = \frac{A_n}{B_n}\) という「有理数の仮定」を代入して、次のステップの分子 \(A_{n+1}\) がどうなるかを見てみます。

手順1:漸化式の変形

\[v_{n+1} = \frac{a_{n+1}}{v_n} – b_{n+1}\]

手順2:仮定(有理数)の代入

\[v_{n+1} = \frac{a_{n+1}}{\left(\frac{A_n}{B_n}\right)} – b_{n+1} = \frac{a_{n+1} B_n}{A_n} – b_{n+1}\]

手順3:通分して「分子」を定義する

\[v_{n+1} = \frac{a_{n+1} B_n – b_{n+1} A_n}{A_n}\]
ここで注目すべきは、\(v_{n+1}\) の分母が、前ステップの分子 \(A_n\) になったということです。
この新しい分子を \(A_{n+1}\) と置くと:
\[A_{n+1} = a_{n+1} B_n – b_{n+1} A_n\]
\[v_{n+1} = \frac{A_{n+1}}{A_n}\]

\(a, b, A, B\) はすべて整数なので、\(A_{n+1}\) も当然整数となります。

4. 無限降下:整数の「1」という壁

ここからが証明の核心です。

メイン記事で解説した「分母が分子を圧倒する条件(\(|b_{n+1}| \ge |a_{n+1}| + 1\))」により、十分大きな \(n\) 以降では、剰余項は常に次の範囲に閉じ込められます。
\[0 < v_{n+1} < 1\]
この \(v_{n+1}\) に、先ほどの \(\frac{A_{n+1}}{A_n}\) を代入すると:
\[0 < \frac{A_{n+1}}{A_n} < 1\]
両辺に正の整数 \(A_n\) をかけると、次の不等式が導かれます。
\[0 < A_{n+1} < A_n\]

「行き止まり」

この式は、「整数である分子 \(A_n\) が、ステップを進めるごとに必ず小さくなる」ことを示しています。
\[A_n > A_{n+1} > A_{n+2} > A_{n+3} > \dots > 0\]

ここで矛盾が発生します。

  • 連分数の性質: この展開は無限に続くため、減少に終わりはない。
  • 整数の性質: 正の整数には最小単位「1」があり、無限に小さくなり続けることは不可能である。

5. 結論:仮定の崩壊

「永遠に小さくなり続ける整数 \(A_n\)」などというものは存在しません。よって。初めの仮定が偽であったことを示せます。

  1. 否定された仮定: 「xが有理数の時\(\tan x\) は有理数である」
  2. 示された定理: 「\(x \neq 0\) の有理数に対し、\(\tan x\) は無理数である」

この補題が証明されたことにより、\(\tan(\pi/4)=1\)(有理数)である以上、\(\pi/4\) は決して有理数ではあり得ないことになり、\(\pi\) の無理数性が確定します。


まとめ

ランベルトの証明の凄みは、「正の整数は無限に小さくなれない」という極めて原始的で強力な整数の性質(無限降下法)を、連分数という「終わらない計算」にぶつけた点にあります。

「着陸地点(有理数)が見つからないまま、永遠に整数を削り続けなければならない」という連分数の悲鳴が、無理数であることの証明なのです。

今回は、tan xおよび、πが無理数であることの証明に焦点を当ててランベルトの補題を考えてみましたが、eネイピア数が無理数であることを証明できたりします。機会があれば紹介しようかなと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

では、本編で。 lumenHero

関連記事:ランベルトの連分数展開

歴史と概要:πが無理数であることの証明:ランベルトの功績と連分数展開の歴史【ランベルトの連分数展開 #1】
理論と数式:tan x の連分数展開の導出:微分方程式を用いた数理的アプローチ【ランベルトの連分数展開 #2】
無理性の証明(本編):πが無理数であることの証明:ランベルトの定理と論理【ランベルトの連分数展開 #3】
現代での活用:(記事は現在利用できません: ID 7463)

自作電卓に組み込んでみた : (記事は現在利用できません: ID 7438)