アナログで発振させる
世の中には便利な「ファンクションジェネレータキット」があり、IC一つで手軽に正弦波を出力できます。しかし、安価なキットの多くは「三角波を作ってから、角を削って正弦波に見せかける」という手法をとっています。 便利ですが、波形を拡大したりFFTで見たりすると、どうしても歪みやノイズが見えてしまいます。
ビュアな正弦波は、もっとアナログに、シンプルな仕組みで正弦波を生成することができる移相型の発振回路で得ることができます。
トランジスタで組むこともできますが、バイアス調整などの難易度が高くなりがちです。そこで今回は、扱いやすく高音質な「オペアンプ(増幅器)」と、抵抗・コンデンサ(CR)だけを使った「CR移相型正弦波発振回路」を設計・製作し、仕組みの理解とピュアな1kHzの生成をしてみます。

画像:ブレッドボードで配線(ちょっとごちゃついている)
理論:どうやって「特定の周波数」だけを作るのか?
「発振」とは、無(静寂)から信号が生まれる現象のように見えますが、実は「微小なノイズを増幅し、特定の音色だけを共鳴させ続ける」プロセスです。
通電した直後の回路には、熱雑音などの微小なホワイトノイズが存在します。このノイズには、低い音から高い音まで、あらゆる周波数成分が含まれています。ここから欲しい周波数(例えば1kHz)だけを選び出すのが「フィルタ」の役割です。
※”低い音”,”高い音”と表現していますが、実際は電気的な信号の周波数の低いものと高いもののことです。”音”のほうがこのフィルタがわかりやすいと思うので音と表現しています。 モスキート音が聞こえにくいとか、低音が安いスピーカだと聞こえにくいのをイメージしてもらえるとわかりやすいと思います。

ハイパスフィルタとは?
ハイパスフィルタは、 (ハイ'(high)=高い周波数,パス(pass)= 通す、通過させるフィルタ)
周波数が低いほど信号が弱くなり、
周波数が高いほど信号がそのまま通りやすくなる回路です。
一般的にカットオフ周波数とは、理論式は略しますが、
出力が最大値の約 70%(−3dB)になる周波数を指します。
コンデンサによる位相のズレ
コンデンサ(C)と抵抗(R)を組み合わせた「CRフィルタ(ハイパスフィルタ)」。 交流理論において、信号がコンデンサを通ると、電圧に対して電流の位相が「進み」ます。
理論上、1段のCR回路で最大90度まで位相を進めることができます(実際には抵抗が入るため90度未満になります)。

180度のズレを作る「3段重ね」
オペアンプを使った「反転増幅回路」は、入力された信号を180度反転させて出力します。
発振を持続させる(正帰還させる)には、出力された信号をさらに180度ずらして入力に戻し、トータル360度(=0度、同位相)にする必要があります。
しかし、CR回路1段では90度しかずらせません。2段でも理論限界で180度なので、余裕がありません。
そこで、「3段」重ねます。
1段あたり60度ずらせば、\( 60^\circ \times 3段 = 180^\circ \) 。これなら無理なく位相を回せます。


入力と反転増幅後、及びハイパスフィルタの各段の波形図
浄化のサイクル
- ノイズの中から、フィルタ条件に合う周波数だけが位相を揃えて戻ってくる。
- オペアンプで増幅される。
- 再びフィルタを通ることで、不要な周波数が削ぎ落とされる。
このループを瞬時に繰り返すことで、特定の周波数だけが純度を高めながら成長し、綺麗な正弦波として出力されるのです。

ノイズから正弦波が「浄化」されていく様子(シミュレーション)
3. 設計:1kHz発振回路を作る
理論に基づき、オーディオ帯域の基準となる1kHzの発振器を設計します。
周波数の決定と定数計算
3段のCR移相型発振回路(進相型)の発振周波数 \(f\) は、以下の式で求められます。
\[f = \frac{1}{2\pi \sqrt{6} CR}\]
今回は手持ちの部品の都合上、コンデンサ \(C\) を \(0.1\mu F\) に固定し、必要な抵抗値 \(R\) を逆算します。
\(f=1000\) (Hz) を代入して計算すると、約650Ω付近となりますが、コンデンサの実際の容量が計測したところ、公称値より大きかったことと負帰還分の整合のため、手元にあった \( 560\Omega\) を使用することにしました。
増幅率(ゲイン)の調整
この回路が発振するためには、減衰した分を補うための増幅率(理論値で29倍以上)が必要です。
負帰還部分の抵抗には、\(5.1k\Omega\) の固定抵抗に加え、\(10k\Omega\) の可変抵抗を直列に繋ぎました。
これにより、発振の強弱(ゲイン)を調整でき、波形が歪まないギリギリの美しいポイントを探れるように設計しています。
4. 回路図と実装テクニック
今回使用したオペアンプは、オーディオ用として定評のある「NJM4580DD」です。
低ノイズで歪みが少なく、綺麗な波形を作るには最適です。
回路図概略(位相部分などのイメージ図なのでこのままだと動きません)

概略図:CとRは、発振周波数により変わる。
出力段は交流のみを取り出すためと出力抵抗を100kΩにするための抵抗
- 発振段: 1回路目のオペアンプで移相型発振回路を構成。
- 仮想GND: 単電源(ACアダプタ)で動作させるため、抵抗分圧で電源電圧の中点を作り、そこを仮想グランドとしています。
【コラム】なぜ2回路入りオペアンプなのか?(ボルテージフォロワの魔法)
今回の回路のポイントは、2回路入りオペアンプの「余ったもう1回路」の使い方です。
発振回路の出力をそのまま長いケーブルやスピーカーに繋ぐと、その負荷(抵抗や容量)の影響で発振が止まったり、周波数がずれたりすることがあります。
そこで、2段目を「ボルテージフォロワ(バッファ)」として構成しました。
- ボルテージフォロワとは: 増幅率1倍(入力と同じ電圧が出る)の回路。
- メリット: 入力インピーダンスが無限大に近く、出力インピーダンスが非常に低い。
つまり、「発振回路には負担をかけず、出力側には力強く信号を送り出す」という仲介役をさせることで、安定した動作を実現しています。
5. 結果と解析:アナログでピュア

完成した回路に電源を入れ、可変抵抗を慎重に回していくと…オシロスコープに美しい波形が現れました。
1) オシロスコープ波形

周波数の実測値(可変抵抗で調整後)は設計値と数%の誤差(1.2%程度)に収まっており、アナログ部品の公差を考えれば十分な精度に収められたと考えています
2) FFT解析(周波数スペクトル)

FFTの結果 (綺麗なピークが確認できている)
基本波(約1.0kHz)のピークが鋭く立っていますが、その横に並ぶはずの高調波(倍音成分)が極めて小さいことが分かります。
三角波を整形した回路では奇数次の高調波が盛大に出ていましたが、この回路ではノイズフロアの底まで透き通るような静けさです。これこそが、共振から生まれた「本物の正弦波」です。
対数軸(Log)で詳細に確認しても、高調波成分は基本波の1000分の1程度(-60dB以下)に抑えられています。

FFTの結果に縦軸対数を取ったスペクトルヒストグラム
6. まとめ
IC一つで何でもできる時代ですが、こうしてオペアンプとCRだけで組んだ回路には、ブラックボックスにはない「納得感」と「美しさ」があります。
特に、可変抵抗を回して発振が始まり、波形がスッと安定する瞬間は、アナログ回路ならではの楽しさです。
「正弦波風」ではない、混じりっけなしの正弦波が必要な時は、ぜひこの移相型発振回路を試してみてはいかがでしょうか?
今回は、オペアンプで作成しましたが、トランジスタを用いた増幅回路を増幅器として作ってみても面白いと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
では、次の記事で。 lumenHero
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今回の回路をユニバーサル基板に小さくまとめて、12V電源で1kHzの信号を出せるモジュール化します。