ファンクションジェネレータ(正弦波風発振回路キット)の検証

正弦波発振モジュール

AliExpressを巡回していると、500円程度で買える「ファンクションジェネレータキット」が目に止まりました。

アクリルケース付きで、見た目もメカニカルで面白そう。「まあ、失敗してもこの値段だし」と、電子工作の暇つぶし用にポチってみました。

発振回路自作キット。

キットの内容

製作:説明書通りにサクッと組み立て

届いたキットを開封。専用基板と抵抗やコンデンサなどあとは制御用と思われるICが入っていました。

(手元にあったスペーサがちょうどいいサイズだったのではんだ付けの土台に使うことにしました。)

サクッと組み立て

発振回路キットの抵抗をすべてはんだ付けした様子

抵抗をはんだ付け

抵抗をはんだ付けします。(一般的に電源回路などでは)抵抗は発熱することがあるため、若干(1mmくらいは)基板から浮かせて実装しました。

(後でオシロスコープのプローブ(フック)を引っかけやすいというメリットもあります。)

発振回路キットの受動素子を統べてはんだ付けした様子

コンデンサをはんだ付け

セラミックコンデンサと電解コンデンサが入っていたので、電解コンデンサは極性を気にしながらはんだ付けしました

発振回路キットの受動素子を統べてはんだ付けしたのちピンヘッダをはんだ付けした様子

ピンヘッダをはんだ付け

説明書を見ると、このピンのうちどれを短絡するかで周波数を変えられるらしい

発振回路キットのすべての素子をはんだ付けした様子、抵抗とコンデンサ、ソケットなどが赤い基板上に配置されていることがわかる

ソケットなどをはんだ付け

電源用(9V~12V)のACアダプタソケットと、可変抵抗などのはんだ付け

発振回路キットのすべての素子をはんだ付けした様子、抵抗とコンデンサ、ソケットなどが赤い基板上に配置されていることがわかる

ケースに入れて完成

ケースが付随していたので、それに入れて完成

はんだ付け自体は部品点数も少なく、シルク印刷通りに挿していくだけなので30分もかからずに終了しました。

「あれ? 正弦波発振回路でおなじみのウィーンブリッジや移相型の回路構成じゃないな…?」 オペアンプを使った発振回路の構成ではなく、完全にIC一本に依存した回路になっています。「まあ、専用ICを使っているんだから当然か」と思いつつ、完成しました。

実測

電源仕様を確認すると9V〜12Vとのこと。 ジャンク箱を漁って、手元にあった適当な12VのACアダプタを接続してみました。

さっそく出力端子にオシロスコープを繋いでみます。

オシロスコープで検証

信号を見ると、正弦波っぽい発振が確認できました。

このサイズでサクッと1Hzくらいから100kHzくらいの交流信号を出せるのはとても便利。

sin波(正弦波)以外にも、方形波出力、三角波出力もできるようです。

解析:波形の正体を探る

無事に発振し、周波数可変もできたので「完成!便利!」で終わらせても良いのですが、波形を見ているとなんとなく気になる点があります。 せっかくなので、オシロスコープの解析機能を使って、この「正弦波」の純度をチェックしてみましょう。

1) 正弦波の現信号(時間軸)

まずは、出力された正弦波をオシロスコープで見た様子です。

発振回路キットの出力信号の波形画像

2) 正弦波のFFT(周波数軸)

「見た目」の感覚だけに頼るのはエンジニアらしくないので、FFT(高速フーリエ変換)機能を使って、周波数成分(スペクトル)を見てみます。 もしこれが「純粋な正弦波」なら、基本波(発振周波数)のところに一本だけ鋭いピークが立ち、それ以外はノイズフロアに埋もれて見えないはずです。結果はどうでしょうか。

発振回路キットの正弦波の出力信号をFFTで解析した画像、1Hzに山があることがわかる

ご覧の通りです。 一番高いピーク(基本波)は出ていますが、それ以外の周波数成分も含まれているようです。縦軸が等倍だと小さい信号が見づらいので縦軸にlogを取ってみてみます。

発振回路キットの出力信号をFFTで解析した画像

基本周波数以外にも、基本周波数(1Hz)の前後に周波数成分があり。3倍4倍の周波数成分も強く出ているようです。

なぜこんなに倍音成分が含まれているのでしょうか? その謎を解く鍵は、このキットの「別のモード」にありました。

3) 三角波の現信号とFFT

このキットはジャンパピンを切り替えることで「三角波」も出力できます。 同じ周波数設定のまま、三角波に切り替えて測定してみます。

発振回路キットの三角波の波形画像

綺麗な三角波が出ています。

発振回路キットの三角波の出力信号をFFTで解析した画像、1Hzに山があり、その後3倍と5倍の位置に山が見えることがわかる

三角波にFFTをかけたスペクトルグラフ

発振回路キットの三角波の出力信号をFFTで解析した画像

三角波にFFTをかけたスペクトルグラフ(縦軸にlogを取ったもの)

FFTを見ると、基本波に対して奇数次高調波(3倍、5倍…)が綺麗に減衰しながら並んでいるのが教科書通りに観測できます。

理想的には、奇数次高調波だけで構成されるはずですが、回路上の共振などから(2倍4倍…)のところにも出ているようです。

4) 比較してわかった「作られた波」の事実

ここで、先ほどの「正弦波のFFT」と「三角波のFFT」を見比べてみてください。 正弦波の方に残っていた不要なピークの周波数が、三角波のそれと一致していることが見て取れると思います。

発振の肝となっているファンクションジェネレータIC”XR2006CR“データシートを見ると、仕組みがよくわかりました。

xr2206の内部処理を表すブロック線図。
データシートより引用。VCOからSine Shaperへ信号が流れているのが分かる。

この図の「VCO」と書かれた部分から、「Sine Shaper」へと矢印が伸びているのが分かります。

このIC、実は「最初から正弦波を作っているわけではない」のです。 内部の仕組みをざっくり言うとこうです。

  1. VCO(電圧制御発振器): まず、コンデンサの充放電を利用して「三角波」を作る。
  2. Sine Shaper(正弦波整形回路): その三角波を、内部の変換回路(折れ線近似や差動対の非線形性を利用した回路)に通して「角を削り落とす」。
  3. 出力: 「正弦波っぽく整形」して出力する。

つまり、オシロで見ていたあの波形は、純粋な共振から生まれたピュアな正弦波ではなく、「無理やり丸くされた元・三角波」だったわけです。 そう言われてから改めてオシロの波形を拡大して見ると、頂点の部分にわずかな「歪み」や「折れ目」の名残が見えるような気がします。

まとめ

 たった数百円でこれだけの機能が手に入る。現代の電子工作環境の恵まれさを実感するキットでした。 「ちょっと信号を入れたい」という実用用途なら、これで文句なしの100点満点です。

しかし、波形の拡大図を見てしまった私の心には、少しのモヤモヤ(といっても良い意味での)が残りました。 「これは、三角波が無理して正弦波のフリをしている姿ではないか」

やはり、電子工作や音響などをやっていると、ピュアな信号に憧れます。

次回はICというブラックボックスには頼らず、アナログ回路の基本である「位相シフト発振回路」を自作して、「理論的に美しい、本物の正弦波」を作り出してみたいと思います。

(次回予定、回路完成次第…しばしお待ちを…)