
1. はじめに:前回の宿題と今回の目的
前回は2石シュミットトリガ回路を導入し、RC回路のダレた信号を「パチッ」と切り替えることに成功しました。しかし、一つだけ実用上の課題が残っていました。
- 前回の動作: 待機中に点灯し、ボタンを押すと一定時間「消灯」する。
- 理想の動作: 待機中は消灯し、ボタンを押した後の一定時間だけ「点灯」させたい。
第1回、第2回で使ったC1815には、実はA1015という双子の兄弟(PNP)がいます。今回はこの兄弟に手伝ってもらって、出力をひっくり返してみましょう
※↓動作の基本から順に知りたい場合はシリーズの初めからさらっと流し読んでいただくとわかりやすいと思います。(2記事なのでそれなりにしっかり読んでも10分もあれば読み切れます。)
第一回:CR遅延タイマー
【実験】コンデンサの放電でLEDを「ぼわ〜っ」と消すタイマー回路を作ろう【TrST】#1
コンデンサの過渡応答とトランジスタだけで作る、ぼわっと消えるLED遅延タイマー回路を解説。555不要のシンプル電子工作で、時定数や仕組みも分かりやすく紹介します。シリーズとして、最終的にはオフディレイ・タイマー回路へと発展させていきます。
2. 今回の主役:PNPトランジスタ 2SA1015
論理をひっくり返すために、今回はC1815(NPN)のペアとして有名な A1015 を使用します。

反転に用いるPNPトランジスタ
役割: 1段目(NPN)のコレクタ信号が「L(低い)」になった時だけ、負荷に電流を流す「ハイサイドスイッチ」として働きます。
ピン配置: 平らな面を手前にして左から E(エミッタ)、C(コレクタ)、B(ベース) です。(1815と同じ)
トランジスタセット(C1815とA1015が入っています。)
調べてみると個別で買うより安かったです。
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3. 回路図と接続方法
前回のシュミットトリガ回路の後に、PNP段を追加します。Q1のコレクタ(待機状態で低い電圧になる方)から信号をもらうのがポイントです。
自身で設計するときは、Q3のベースに必ず制限抵抗\(R_13\)を入れてください。これがないと、トランジスタが壊れるだけでなく、前段のシュミットトリガ回路の電圧も不安定になってしまいます。
回路図

オフディレイ・タイマー回路
略さず1段目(第1回の回路)から順に名前を付けるとしたら、CR遅延2Trシュミットトリガ出力反転回路というような名称になるかと思います。
接続のポイント
- Q3(A1015)のエミッタ: 電源のプラス(\(V_{CC}\))に直接接続。
- Q3のベース: \(4.7k\Omega\) 〜 \(10k\Omega\) の抵抗\(R_{13}\)を介して、Q1のコレクタへ。
- Q3のコレクタ: LEDのプラス側へ接続(LEDのマイナス側は抵抗を介してGNDへ)。
4. 動作原理:なぜ「正論理」に変わるのか?
なぜ一段増やすだけで、ボタン操作に連動した動きになるのか。その論理の流れを追いかけてみましょう。前回動作原理を結構長く説明しており、読むのに疲れたと思いますので、今回は短めに箇条書きしました。
- 待機状態(LED消灯):Q1はOFFなので、Q1のコレクタは「H」です。Q3(PNP)のエミッタとベースがどちらも「H」なので電位差がなく、Q3はOFF。LEDは消灯したままです。
- ボタンON(LED点灯):ボタンを押してQ1がONになると、Q1のコレクタが「L」に引き下げられます。するとQ3のエミッタ(H)とベース(L)の間に電流が流れ、Q3がONに!。LEDが点灯します。
- タイムアップ(LED消灯):放電が進み、シュミットトリガが反転してQ1がOFFに戻ると、Q3も連動してOFFになります。
これで、私たちの直感に合う「押したら一定時間で動くスイッチ」が完成しました。
5. 回路図と実機検証:パチッと消えて点く。
回路図:回路定数付き
回路図は以下の通りで組んでみました。
(実験してみると、Q3のベース電圧が上がり、待機状態で微妙に点灯したので、プルアップ抵抗としてQ3のベースとエミッタ間に抵抗1kΩを追加しています。)

オフディレイタイマー回路図(回路定数付き)
動作チェック

ボタンを押してから一定時間だけLEDが点灯している様子
3段構成にする技術的メリット
あえて一段挟んだのには、論理反転以外にも理由があります。
- 回路の整合性(アイソレーション): 出力段を分離したことで、LEDに流れる大きな電流がシュミットトリガ回路(Q1, Q2)の「しきい値」に干渉しなくなりました。 これにより、負荷の種類に関わらず安定したタイマー時間を維持できます。
- 圧倒的な拡張性: 今回はLEDを光らせましたが、Q3をより大電流に強い 2SA1020 などに交換すれば、リレーやモーター、大光量のパワーLEDなども簡単に制御可能です。 まさに「制御の基本形」と言える構成です。
6. まとめ:ディスクリートで「ロジック」を組む楽しさ
全3回にわたってお届けしてきた「ディスクリート部品縛り」のタイマー回路シリーズ、いかがでしたでしょうか。
- 第1回: アナログの基本、RC放電と過渡現象を知る。
- 第2回: シュミットトリガで「0か1か」のキレ味を作る。
- 第3回: 出力段の設計で、実用的な「道具」へと昇華させる。
専用のタイマーIC(555など)を使えばもっとコンパクトに作れるかもしれません。しかし、トランジスタを組み合わせて「なぜそう動くのか」を一つずつ解決していく過程は、ブラックボックス化した現代のテクノロジーの裏側にある「ロジックの原点」に触れる貴重な体験になります。
次回予告:PNPがない?ならNPNだけで解決しよう
今回までで完結としてもよかったのですが、回路設計をするとき、ちょうどいいPNPトランジスタが手元にあるとは限りません。そこで次回は、ちょっと発展的に、PNPのトランジスタを使わず、1段目と2段目と同じNPNトランジスタ1815だけを使って反転動作を作ることができるロジック反転回路を用いて、今回と同様の動作をさせてみようと思います。
今回のシリーズ記事一覧
3 記事
ディスクリートで作るタイマー回路
ディスクリート部品で作るタイマー回路の記事シリーズです
今回使用した部品の一覧はこちら: 関連記事は、2026年2月16日に公開予定 (あと1週間)