
1. はじめに:どこのご家庭にもあるC1815
前回は、C1815(NPN)の相補トランジスタである A1015(PNP) を用いて、
「ボタンを押してから一定時間だけ動作する」オフディレイスイッチを作る回路を紹介しました。
今回は第4回となる 「NPN(2SC1815)縛り編」 です。
どこのご家庭にもある?(※電子工作勢に限る) ”汎用性の高いNPNトランジスタC1815”だけで論理を反転させる構成は、まさに
「手元の部品でなんとかする」 電子工作の醍醐味と言えます。
第3回のPNP版(ハイサイド・スイッチ)と対比させる形で、今回は
「NPNによるローサイド・スイッチ」 としての構成を組んでみましょう。
2. NPN(2SC1815)だけで反転させる回路構成
第3回ではPNPを使って「電源側」でスイッチしましたが、今回はNPNを使って「GND側」でスイッチを入れます。
シュミットトリガ動作のq2のコレクタ電圧は、off状態でも0vにはならないので、分圧抵抗4.7kΩを3つ目のトランジスタQ3のベースとグランド間に入れています。
回路図:NPN縛り

NPN縛りのオフディレイ・タイマー回路図
3. なぜこれで「正論理(押すとON)」になるのか?
シュミットトリガのQ2の動きと今回追加した 「抵抗分圧による電圧ダイエット」 を意識すると、ロジックが非常にスッキリ繋がります。
- 待機状態(LED OFF):1Vの壁を分圧で突破Q2はONになっていますが、エミッタ抵抗(\(R_e\))のせいでQ2のコレクタ電圧は \(0\text{V}\) ではなく 約 \(1\text{V}\) 程度浮いています。そのままではQ3がONになってしまいますが、ベースに \(4.7\text{k}\Omega\) の分圧抵抗を追加したことで、Q3のベース電圧を 約 \(0.3\text{V}\) まで引き下げることに成功しました。これはNPNがONになるしきい値(\(0.6\text{V}\))を下回るため、Q3はしっかりOFFを維持し、LEDは消灯します。
- ボタンON(LED ON):力強く「H」を伝えるタイマー動作が始まると、Q2がOFFになります。するとQ2のコレクタ電圧は \(R_{cq2}\) を通じて電源電圧(\(3\text{V}\))付近まで跳ね上がります。分圧回路を通しても、Q3のベースには 約 \(1\text{V}\) 近い電圧が届くため、Q3は確実にONになります。これでLEDが点灯します。
- タイムアップ(LED OFF):再び低電圧へ再びQ2がONになると、Q2のコレクタ電圧が低下します。分圧抵抗によってQ3のベース電圧も再び \(0.3\text{V}\) 付近へ落とされるため、LEDもパチッと消灯します。
シュミットトリガの動作の説明をした記事↓(第2回)
【実験】2石シュミットトリガで「パチッと」切り替わるタイマー回路 【TrST】#2
RC回路と2石トランジスタで作るシュミットトリガタイマー回路を解説。過渡応答で曖昧だった動作を、正帰還とヒステリシスで「パチッ」と切り替える仕組みを図解します。
4. ハイサイドスイッチ(PNP)と今回のローサイドスイッチの違いは?
前回の回路だと、反転にPNPトランジスタを用いていました。前回の回路と今回の回路、動作的には同じように見えます。
動作が同じなのに前回の回路は、部品の種類が増えて手間が増えたように見えますが何が違うのでしょうか?
highsideとlowsideの違い
一番のポイントは、「OFFのときに負荷(LED等)がどういう状態か」です。
- ローサイド(NPN)の場合: LEDの「手前」までは電気が来ています。 スイッチ(Q3)はGNDへの出口を塞いでいるだけなので、もしLEDの配線が剥き出しになっていて、それが金属製のケース(GND)に触れたら、タイマーがOFFでもLEDが勝手に光ってしまいます。
- ハイサイド(PNP)の場合: スイッチ(Q3)が電源の入り口を遮断します。 OFFのときはLEDの周辺に電気が一切来ていないため、どこに触れても、どこが短絡しても勝手に動くことはありません。
ローサイド(NPN) vs ハイサイド(PNP) 比較表
| 比較項目 | ローサイド(NPN / 第4回) | ハイサイド(PNP / 第3回) |
| 負荷の電位 | 電源電圧(\(V_{CC}\))に繋がったまま | GNDに繋がったまま |
| 安全性 | △誤って筐体(GND)に触れると通電するリスクあり | ◎待機中は負荷に電圧がかからず安全 |
| 電蝕・劣化 | △待機中も負荷に電圧がかかるため、腐食が進みやすい | ◎待機中は電圧が遮断されるため、劣化に強い |
| 部品の入手性 | ◎(2SC1815のみで完結) | ○(NPNとPNPの両方が必要) |
| 制御のしやすさ | ◎非常に簡単(GND基準で動く) | △電源電圧が高い場合、工夫が必要 |
結論:PNPを使う意味はある?
今回のような「電池駆動のLEDタイマー」であれば、性能差はほぼありません。 むしろ、2SC1815だけで組める手軽さは大きなメリットです。
ただ、「将来的にリレーを叩いて大きな機器を制御したり、金属筐体のガジェットを作ったりする際に応用が効くのはPNP(ハイサイド)である」と言えます。(第三回を”実用回路編”としているのはこういった意図もあります。)
【実用】トランジスタで組む、一定時間だけ動作させるワンショットタイマー回路【TrST】#3
「ボタンを押している間だけONにしたい」──前回の課題だったシュミットトリガ回路の出力をPNPトランジスタ(2SA1015)で反転させ、理想のオフディレイタイマーを完成させます。3段構成にする技術的なメリットや、実機検証で判明した安定化のコツも詳しく解説。ディスクリート回路の面白さを体感しましょう。
5. 実機検証
実際に回路を組んで動かしてみました。PNPを使わずとも、ボタンを押してから一定時間だけ「パチッ」と動作できていることが確認できます。

ボタンを押してから一定時間だけLEDが点灯している様子
6. まとめ:制約こそがアイデアの源泉
全4回(+番外編予定!)にわたるタイマー回路の旅、いかがでしたか?
- 第1回: 1石Trでアナログの基本を学ぶ。
- 第2回: 2石でデジタルな「キレ」を作る。
- 第3回: PNPで安全な「ハイサイド」を実装。
- 第4回: NPNのみでの反転ロジックを実現。
トランジスタを使えば、比較的簡単にいろんな動作を作れて面白いです。
次回は番外編として、シュミットトリガの肝であった共通エミッタ抵抗(\(R_e\))の値をいじると、タイマーの「粘り(ヒステリシス)」がどう変わるのか実験してみたいと思います!
【実用】NPNトランジスタだけで組むワンショットタイマー回路【TrST】#4
汎用NPNトランジスタ「2SC1815」縛りでオフディレイタイマーの論理反転に挑戦! PNPを使わずに分圧抵抗で「電圧ダイエット」を行い、確実にスイッチングさせる回路構成を詳しく解説します。 手元の部品でロジックを操る、電子工作の醍醐味を凝縮した第4回です。
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ディスクリートで作るタイマー回路
ディスクリート部品で作るタイマー回路の記事シリーズです
今回使用した部品の一覧はこちら: 関連記事は、2026年2月16日に公開予定 (あと5日)